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No.10【改正土地建物一体税制のポイント】

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台湾は財政部(財務省に相当する行政機関)は、不動産に関する税制の健全化を図るために所得税法の第4-4条、4-5条、14-4から14-6条、24-5条及び126条の改正を立案し(一般に土地建物一体税制2.0版と呼ばれます)、2021年4月9日成立、同年7月1日施行となりました。その主要な影響を以下に纏めます。

 

一、改正の概要
(一) 納税者が個人である場合について、短期譲渡所得の適用を受ける「短期」に概要する年数が下表のとおり緩和されました。

納税義務者

個人

適用税率

保有期間

法改正前

改正後

不動産所在地

台湾内

45%

1年以內

2年以內

35%

1を超え2未満

2を超え5未満

20%

2を超え10未満

5を超え10未満

15%

10を超える

10を超える

台湾外

45%

1年以內

2年以內

35%

1を超える

2を超える

 

(二) 法人名義での不動産取引による節税の不公平を手当てするため、法人の不動産取引についても個人と同等の税率が課されることになりました。

納税義務者

法人

適用税率

保有期間

法改正前

改正後

不動産所在地

台湾内

45%

なし

2年以內

35%

2を超え5未満

20%

一律適用

5を超える

台湾外

45%

1年以內

2年以內

35%

1を超える

2を超える

 

(三) 課税対象の拡大
経済的実体が不動産取引であるといえる次の2つの行為を、課税の適用対象に加えました。
1. 建物と底地の購入予約権(中文で俗に「紅單交易」と呼ばれます。)
2. 営利事業者(所得税法第11条第2項に定義される会社、個人事業、組合等)の株式又は持分の価値の50%以上が台湾内の土地建物で構成されている場合において、保有する株式又は持分の過半数の取引。ただし、上場又は店頭公開会社の株式を除きます。

 

(四) 課税所得の計算において「地価上昇総額」の控除額の上限が設定されました。

〔土地建物一体税制の課税所得〕=〔売却価額〕-〔取得費用〕―〔改良及び権利移転に要する費用〕―〔地価上昇総額〕

 

従来の税制では、土地は土地税法、建物は所得税法でそれぞれ定められており、土地については取得時と売却時のそれぞれの年度の路線価に基づき土地増値税の価格が決定されていましたが、路線価と時価との乖離の問題がありました。そして、土地税法と所得税法の税率の違いを利用して、土地建物の売却価格につき、建物価格と土地価格への配分を調整することによる節税がみられました。

 

今回は、土地増値税を撤廃せずに残しつつ、控除できる地価上昇総額に上限を設定することで二重課税の回避が図られました。土地建物一体税制の課税所得から控除できる地価上昇総額の上限は、「売却の当年度の路線価から取得時の路線価を引いた金額」です。ただし、この控除できない部分の金額について、土地増値税の課税所得から費用として控除することができます(所得税法第14-4条第1項但書)。
 

(五) 次の5種類の低税率の事項については、今回の法改正の影響を受けません。
1. 税率20%を維持
(1) 個人や営利事業者が、自ら望んだ訳でなく(職場異動、強制執行などの理由により)取得から5年以内に売却する場合
(2) 個人や営利事業者が、自己の土地で建設業者と共同で建築し、完工後に一部を地主の分として割当てられた後5年以内に売却する場合(建築業者との共同建設を証する契約書が必要)
(3) 個人や営利事業者が、建物老朽化に伴う建て替えに参与することに伴い土地建物を取得した後、5年以内に売却する最初の取引


2. 税率10%を維持
自己が居住する土地建物であって戸籍を設定し満6年以上の場合


3. 営利事業者による建物建設の完了後の最初の売却取引は、なお営業事業所得税の関連規定に則って取り扱われます(所得税法第24-5条第4項)。
(1) 個人事業又は組合の営利事業者による土地建物取引については、個人事業主又は組合員個人が土地建物一体税制に基づく申告・分離課税を行い、営利事業組織の所得金額には算入しません。
(2) 改良(リフォームなど不動産の価値を上昇させる行為)などの費用を控除する際に金額の証憑がない場合に適用する推計費用率が5%から3%に引き下げられ、控除の上限金額NTD30万元が設定されました。
(3) 土地建物一体税制の適用対象
前述の土地建物一体税制の対象にあたる個人及び営利事業者について、且つ2016年以降に取得した土地建物の取引について、2021年7月1日から、土地建物一体税制が適用されます。
 

二、留意点
(一) 申告期間
個人については、分離課税で登記後30日以内に申告、不動産業の建設売買を業としない法人については、営利事業所得税の決算時に他の所得と分離して申告します。売却益と売却損のいずれにしても、申告漏れでペナルティを科されないよう期限内に申告しなければなりません。

 

(二) 株式売却の土地建物一体税制適用対象への該当性
上記一(三)2で述べたとおり、非公開株式発行会社の株式の過半数を直接又は間接に保有し、且つ株式の価値の50%以上が台湾内の土地建物である場合、株式の売却が土地建物一体税制に基づく課税対象となります。この場合の土地建物が2016年1月1日以降に取得したもののみを対象とするか否かは法令上明記されていませんが、上記一(七)に記載の適用時期の趣旨からみれば、2016年1月1日以降取得に限定されるべきと解されます。この点を明確にするには当局の解釈通達等を待つ必要があります。

 

(三) 改良等費用控除のための証憑の保管
上記一(六)で述べたとおり、土地建物一体税制では改良行為等の費用につき課税所得から控除できる推計費用率が5%から3%に引き下げられ、控除の上限金額NTD30万元が設定されました。実際にかかる費用がこの上限を超える場合は、できるだけ推定課税ではなく実際の費用を計算して控除できるよう証憑を適切に保管することをお勧めします。

 

参考文献:
財政部房地合一稅2.0六大修法重點一次看!(2021/4/9)ウェブサイト:https://www.mof.gov.tw/houseandland/multiplehtml/69b9687a1668428daff92d750363da43(2021/6/28)

 

個別具体的な事案については当事務所へお気軽にお問合せください。

 

周  泰維  パートナー弁護士 david.chou@eternity-law.com

松見 日帆子 シニアカウンセル hihoko.matsumi@eternity-law.com

黃  若清  弁護士 rochinhuang@eternity-law.com


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