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No.11【台湾における外国子会社合算税制の動向】

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台湾から海外の特にタックスヘイブンに移されていた資金を台湾に戻すことを推奨するための暫定優遇措置として2019年8月15日に施行された「海外資金回収の管理、運用及び課税に関する条例」(以下「資金返台特別法」といいます。)が、本年2021年8月16日に終了しました。 台湾財政部(財務省にあたる行政機関)は、この2年間で累計NTD3,548億元の海外資金回収の適用申請があり、NTD960億元以上について既に実質投資として承認されたと述べています。
  資金返台特別法の終了に伴い、代わりにより厳しい租税回避防止法措置である海外子会社合算税制(Controlled Foreign Company :CFC税制)が導入されることになっています。本稿では、CFCの内容と、現状台湾の多くの企業や個人が採用しているタックスヘイブン経由での海外投資スキームに対してCFCが及ぼすリスクの有無について解説します。

 

一、海外子会社合算税制(CFC税制)とは

(一) 所得実現インセンティブの忌避

  国際税務上、一般的にいえば、各国は非居住者又は外国法人に対し、当地の国内を源泉とする所得についてのみ課税します。これにより、台湾企業又は個人の居住者は、台湾に帰属するべき所得を故意に外国法人の海外所得に「変貌」させる高いインセンティブを持ちます。

納税義務者 台湾源泉所得 台湾外源泉所得
内国法人(注) 課税 課税
外国法人 課税 非課税
居住者 課税

原則:非課税

例外:最低税負担(ミニマム・タックス)適用により課税の可能性あり

非居住者 課税 非課税

 

(二) CFC制度の創設理由と影響
  国際的な租税回避への批判が高まる以前、台湾の多くの企業や個人が、免税又は税率の低い国に子会社を置き、当該海外子会社を国際取引に参与させて大部分の所得を取得させ、利益を当該海外子会社に留保して、台湾内の台湾居住者や内国法人への剰余金の配当を避けることを行ってきました。

 

  このような租税回避行動による税源浸食や不公正な課税を回避するために、多くの国がタックスヘイブン対策税制の導入を開始しています。OECDのBEPS行動計画3でも、CFC税制の導入または強化が推奨されています。
  台湾では、反租税回避の実体法として、2016年に所得税法第43条の3(営利事業者CFC制度)、翌2017年に所得基本税額条例第12条の1(個人CFC制度)が増設されましたが、施行期日は行政院が定めることとされ、この記事の発行時点では未だ施行されていません。ただ、前述の資金返台特別法の終了に伴い、間もなく施行されることが予想されます。
  CFC制度の施行後、台湾居住者又は台湾の営利事業者が支配する外国法人に故意に所得を貯めて台湾側への配当を行わない場合でも、台湾の国税局は配当が行われたものとみなして、海外子会社からの配当所得を認定して課税します。

 

二、国税局による情報把握
(一) CRS及び国際租税情報交換
  CFC税制を効果的に実施するには、税務機関が、居住者である内国法人又は個人の海外子会社への支配力と財務情報を取得する必要があります。国際的なマネーロンダリング防止と租税回避防止の要請により、すべてのCRS参加国は、次の2種類の対象者が保有又は共同保有する金融機関口座の情報を金融機関に提出させ、各国の税務機関の間の情報交換の対象としています。
(1) 非居住者(外国法人を含む)
(2) 本国法人であって、金融機関ではない非居住者の支配権を有し、(配当やロイヤルティ等)受動的取得を受け取る者

  また、最終受益者も報告すべき情報のひとつであり、多重構造のスキームを採用していたとしても、最終的な支配権を持つ株主や出資者は居住国の税務当局に掌握されます。

 


(二) 台湾におけるCRS制度に沿った国内法整備

  台湾は今のところCRSの枠組みに加盟して加盟各国と多国間の情報交換を行うことができませんが、台湾の財政部(財務省に相当する行政機関)は、台湾と租税協定を締結している相手国との間で個別に主管機関協定を締結しCRSレベルの自動情報交換の水準を目指すほか、台湾の租税徴収法の改正によって課税情報の交換及び台湾内の金融機関からの情報収集の法的根拠としました。財政部が2017年に続々と台湾版CRS関連法令(「金融機関共同届出及び調査作業弁法」中文:金融機構執行共同申報及盡職審查作業辦法、「租税協定税務用途情報交換作業弁法」中文:租稅協定稅務用途資訊交換作業辦法など)を交付したことで、台湾の各金融機関は翌2018年1月1日からすべての顧客の口座に対してデューデリジェンスを実施し、2020年からは毎年6月1日から同月30日までの間に管轄税務当局に情報の届出を行わなければならないことになりました。

 

出所:財政部ウェブサイト

 

  上図に示すように、各金融機関は財政部に届け出たところによると、オーストラリア、日本、英国その他の国の税務上の居住者が台湾に保持している合計130,487口の口座の情報について、財政部に提供する用意があり、各国と情報交換されていることが分かります。

 

(三) 台湾国税局はペーパーカンパニーのOBU口座の情報を知り得る

 

  2021年現在台湾において、CRS情報の自動交換の届出対象国はオーストラリア、日本、英国のみですが(諸国との交渉結果次第、随時増加中)、各金融機関がすべての顧客の口座に対してマネーロンダリング防止対策を徹底し受益者の情報を確認する状況にあり、最終的な実質受益者の情報をデータベースに保存しています。台湾では実務上、台湾内にある銀行に軽課税国会社名義のOBU(Offshore Banking Unit)口座を開設することが多く、台湾の各銀行が実質受益者のデータを持っていますので、税務当局が調査しようと思えば容易に把握できる状態にあります。
  現状、国税局から調査が入るリスクのほか、法務部(法務省に相当する行政機関)調査局も金融機関からのマネーロンダリングの通報を受け付けており、法務部の調査結果としてマネーロンダリングに関する嫌疑が晴れたとしても、脱税の疑いありとして税務当局に通知される場合があり得ます。口座の資金の流れが一般的でない場合は特に注意が必要です。

 

三、CFC税制未施行下における過去の処罰事例
  CFC税制は今のところまだ施行されていませんが、これまでも、台湾企業が検察や国税局から、別の法的手段をもってCFCとほぼ同程度の追徴課税や処罰を科される事例が珍しくはありませんでした。

(一) 台湾でよく見られる間違った取引スキーム

 

  これは台湾でよく見られるスキームです。台湾本社が軽課税国に設立したペーパーカンパニーの名義で販売先国における顧客と商品の売買契約を結んで商品の代金を受け取り、中国の工場に商品を発注して製造委託料金を中国工場に振り込みます。実際の物流も台湾やペーパーカンパニーの所在国をスキップして、販売先国に直送することが殆どです。台湾本社が実際の取引の決定や運用を行いますが、取引の流れの中には登場せず所得が発生しない仕組みです。
  この種のスキームは、約10年前に既に検察により、(軽課税国の会社は架空の企業で、実際は台湾会社の方が取引当事者であり)台湾会社が不当にペーパーカンパニーに帰属させた売上は、実際に取引を運営している台湾会社の売上として台湾会社の帳簿に反映されるべきであるところ、売上を帳簿に十分に記載しなかったと判断され、商業会計法の財務諸表粉飾罪及び脱税罪で起訴され、有罪が確定し、董事長、董事及び監査役の全員がそれぞれ懲役4年の刑を言い渡され、会社も追徴税と罰金を科されました。なお、言い渡された懲役期間は6か月を超えるため、罰金への変換ができず、実刑で投獄を余儀なくされました。

 

(二) 一部の利益を台湾に留保し納税したがなお罰せられた事例


 

  この事例は大多数のケースとは異なり、軽課税国の会社に所得の全部を隠すのではなく、取引価格の調整を通じて、台湾本部も取引に参加し、台湾で利益の一部を取得して納税するもので、台湾への「愛国心」を完全に捨てた訳ではない場合です。
  それでも検察は、軽課税国の会社は架空のもので、台湾本部に帰属すべき売上が隠匿され、商業会計法の財務報告不実罪及び脱税の罪にあたるとして起訴し、第一審と第二審で有罪となり、会社の実質的な責任者が「懲役1年8月,ただし国庫への3,000万元の支払いを条件とする4年間の執行猶予」に処されたほか、会社は本件違法行為により取得した犯罪所得であるNTD約4,255万元を没収されました。また、言うまでもなく、会社は別途国税局から脱税に対する加算税と罰金も科されました。
  上記の2つの事例で分かるとおり、現状台湾版CFCは未発効で国際税務情報交換への段取りも遅いものの、既に金融機関における顧客口座へのデューデリジェンスが実施されている状況下、外国会社の名義で台湾にOBU口座を開いている人々は、税務上及び刑事上の大きなリスクに晒されているといえます。
  貴社がもし同種のスキームを採っているのであれば、税務リスク回避のため、他の合法的な取引スキームによる節税方法を早々に検討することをお勧めします。さらに踏み込んだ個別ケースの分析については、お気軽に当事務所へご相談ください。

 

周  泰維  パートナー弁護士:david.chou@eternity-law.com

松見 日帆子 シニアカウンセル:hihoko.matsumi@eternity-law.com


1. 2021年8月17日付經濟日報ウェブサイト:https://money.udn.com/money/story/5613/5680754?from=edn_referralnews_story_ch12017,最終閲覧日:2021年8月25日。

2. https://www.ey.com/zh_tw/news/2021/07/ey-taiwan-news-release-2021-07-08
https://www2.deloitte.com/tw/tc/pages/tax/articles/202107-tax-cfc.html

3. https://www.mof.gov.tw/singlehtml/384fb3077bb349ea973e7fc6f13b6974?cntId=09eabcd4d92b4b8a97bb489807e1bac1,最終閲覧日:2021年8月26日。

4. 臺灣臺南地方法院刑事判決107年度矚重訴字第1號;臺灣高等法院臺南分院刑事判決108年度金上重訴字第1390號。

 

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